東京地方裁判所 昭和48年(ワ)6704号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実及び昭和四七年一月ごろ原告は被告小川鋳造との間で、すくなくとも請求の原因四1の事項を内容とする契約を締結し、かつ、被告小川一夫が右契約に基づく被告小川鋳造の債務を連帯保証したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない甲第四、第五号証並びに証人瀬下順弘及び同古明地義智の各証言を総合すれば、東京梱包は、昭和四七年一月一日被告小川鋳造との間において、前記確定した請求の原因三2のとおり半自動梱包機についての製造委託契約を締結し、その際に下請業者使用届出と題する書面(前掲甲第五号証)を原告に提出したこと、右届出書には、下請業者が遵守すべき条項として、請求の原因四の1ないし3の各条項と同趣旨の記載があり、かつ、被告小川鋳造が下請業者として、また、被告小川一夫がその連帯保証人としてそれぞれ記名押印していることが認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。右事実によれば請求の原因四冒頭に掲記の契約は、同四1記載の事項のほか同四2及び3に記載の事項をもその内容として締結されたものであることを認め得る。
二 そこで、被告小川鋳造に原告の主張するような違約の事実があつたかどうかについて判断する。
成立に争いのない甲第六号証ないし第八号証、証人瀬下順弘の証言によつて真正に成立したと認める甲第二一、第二二号証及び証人古明地義智の証言によつて真正に成立したと認める甲第二三号証並びに証人瀬下順弘、同立花良介及び同古明地義智の各証言、被告本人湯原正造及び被告オガワ包装代表者兼被告小川公吉各尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。
東京梱包は、昭和四五年一一月ごろ、被告小川鋳造に対し、梱包機の鋳物部分を発注し、以後、両者間において取引が継続的に行われるようになつた。その後、昭和四六年一月ごろからは半自動梱包機(MS型)の製造を発注していたところ、同梱包機について、原告より本件特許発明の実施の許諾を受けていなかつたため、昭和四六年一二月一日、原告と東京梱包との間において、本件特許発明について、原告主張のような通常実施権許諾契約が締結された(右契約締結の事実は当事者間に争いがない。)。更に、東京梱包は、前述のとおり、昭和四七年一月一日、被告小川鋳造との間において、本件特許発明の実施品である半自動梱包機の製造委託契約を締結し、毎月六〇台の右半自動梱包機を発注する予定であつたところ、実際には当初予定した数量をかなり下廻わる数量の注文がなされたにすぎなかつた。そこで、被告小川鋳造は、東京梱包からの発注数量を超えて本件特許発明の実施品であつて別紙物件目録記載の半自動梱包機、すなわち、本件梱包機を製造する一方、本件梱包機について、月六〇台の販売数を確保するために、昭和四六年一二月東京梱包及び被告小川鋳造が共同して出資し、被告小川公吉及び東京梱包代表取締役瀬下順弘ほか一名がそれぞれ取締役に就任し、被告小川鋳造の本店所在地と同一の場所を本店として、被告オガワ包装(当時の商号「株式会社ポリコン」)を設立し、同被告は、昭和四七年一月七日に東京梱包との間に、その製品たる本件梱包機につき代理店として販売する旨の契約を締結し(右契約締結の事実は当事者間に争いがない。)、以後右梱包機を販売していた。
以上の認定事実によれば、被告小川鋳造は東京梱包の注文する数量を超えて本件梱包機を製造していたものであつて、これは前項で認定した原告と被告小川鋳造間の契約(請求の原因四1記載の約定)に違反するものであることが明らかである。
そうすると、被告小川鋳造及びその連帯保証人である被告小川一夫は、その抗弁に理由がない限り、右契約(請求の原因四3記載の約定)に基づき、連帯して原告に対し、所定の違約金一〇〇〇万円を支払うべき義務を負うことになる。
三 そこで進んで、被告らの抗弁について判断することとし、まず抗弁1の当否を検討する。
1 東京梱包と被告小川鋳造間の前記製造委託契約(請求の原因三、2の契約)にも、原告と被告小川鋳造間の前記契約(請求の原因四の契約)におけると同様に、被告小川鋳造に所定の違約事由があつたときは、同被告は東京梱包に対し、違約金一〇〇〇万円を支払う旨の約定があることは当事者間に争いがなく、なお、成立に争いのない甲第三号証によれば、原告と東京梱包間の前記通常実施権許諾契約(請求の原因三、1の契約)にも、右約定と同趣旨の、東京梱包の違約金支払義務に関する約定があることが認められる。そして、原告と被告小川鋳造間の前記契約は、東京梱包と被告小川鋳造との間で前記製造委託契約が締結された際に、東京梱包から原告宛に被告小川鋳造の記名押印のある前記下請業者使用届出書が提出されることによつて、成立したものであること前に認定したとおりであるところ、前掲甲第四、第五号証によれば、被告小川鋳造が東京梱包に対して遵守すべき条項と同被告が原告に対して遵守すべき事項とは、東京梱包の注文する数量及びその指示する仕様に基づく製品のみを製造すべき義務、第三者による本件特許権の侵害行為又は侵害のおそれのある行為を発見した場合にこれを報告すべき義務、帳簿の閲覧及び工場への立入り調査を容認すべき義務等その大部分において一致・符合していることが認められる。
右に説示した点と、原告と被告小川鋳造との間には、本件特許発明の実施に関し、直接的な契約関係はなく、両者間の前記契約も専ら被告小川鋳造が東京梱包の下請業者として遵守すべき義務を直接原告に対する関係においても遵守すべきことのみを、換言すれば、被告小川鋳造の原告に対する義務のみを、一方的に規定したものであるにすぎないこと及び所定の違約金の額は、本件特許権の通常実施権許諾の対価が本件梱包機一台につき金一万五〇〇〇円であることに徴し、甚だ高額であることを合わせ考えれば、被告小川鋳造に所定の違約事由があつた場合において原告及び東京梱包に発生すべき各違約金請求権は、相互に別個独立のものではなく、いわば連帯債権もしくは不可分債権の関係にあり、したがつて、被告小川鋳造としては原告又は東京梱包のいずれか一方に所定の金員を支払えば免責されると解するのが相当である。このことは、次のような理由からも肯定さるべきこと見易い道理である。すなわち、右に反し、原告及び東京梱包の各違約金請求権を別個独立のものと解するときは、被告小川鋳造は所定の違約事由があつた場合に右両名に対し、各金一〇〇〇万円の違約金を支払うべき義務を負うことになるが、これでは同被告の義務があまりにも過大となり不合理というべきである。
なお、前掲甲第五号証中には、被告小川鋳造の原告に対する違約金支払義務に関し、「丙(被告小川鋳造)は本条項の壱に違反したときは、甲(原告)に対し直接違約金として金壱千万円也を支払う。」旨の記載があるけれども、右の記載から直ちに原告の違約金請求権が東京梱包のそれに優先する、換言すれば、被告小川鋳造は東京梱包に対する違約金の支払をもつて原告に対抗できないと解することは困難であるし、ほかに前記結論を左右するに足る証拠はない。
2 ところで、証人瀬下順弘の証言により真正に成立したと認められる甲第一四号証及び同証人の証言によれば、被告小川鋳造は、東京梱包との間で、昭和四七年一一月一二日和解契約を締結し、東京梱包が被告オガワ包装(当時の商号「株式会社ポリコン」)に対して有する債権金一五二三万三一八円より、東京梱包が被告オガワ包装に対して支払うべきアフター料等を差引いた残額及び東京梱包が被告小川鋳造に対して有する前記製造委託契約に基づく違約金請求権金一〇〇〇万円との合計額と、被告小川鋳造が東京梱包に対して有する債権とを対当額にて相殺する旨約したこと、右相殺後においても被告小川鋳造は東京梱包に対し、金一三〇〇万円の残債権を有していたことが認められ、これに反する証拠はない。
3 よつて、被告小川鋳造の東京梱包に対する前記違約金一〇〇〇万円の支払義務は右相殺契約によつて消滅したから、被告らのその余の主張(抗弁)を判断するまでもなく、原告の被告小川鋳造及び同小川一夫に対する右違約金の請求は失当である。
四 次に原告は、被告ら各自に対し、不法行為に基づく損害賠償として金二五〇〇万円の支払を求めるので、判断する。
1 被告小川鋳造と東京梱包との間の前記製造委託契約が昭和四七年八月末日限り終了したことは、当事者間に争いがない。したがつて、同年九月一日以降、原告の許諾を受けることなく、被告小川鋳造が本件梱包機を製造し、被告オガワ包装がこれを販売することは、いずれも原告が有していた本件特許権及び原告が有する本件専用実施権の侵害となることは、叙上認定してきた事実関係から明らかである。したがつて、特段の立証がない本件では、特許法第一〇三条の規定により、右両被告は、後記本件梱包機の製造販売につき、すくなくとも過失があつたものといわざるを得ない。また、昭和四七年九月一日以降本件口頭弁論終結時であること記録上明らかな昭和五四年一一月二八日まで、被告小川一夫は被告小川鋳造の、被告小川公吉は被告オガワ包装の各代表取締役であることは、前記争いのない請求原因一の事実及び本件口頭弁論の全趣旨から明らかであり、被告湯原正造本人尋問の結果によれば、同被告はもと東京梱包の営業部長であつたが昭和四七年七月一〇日ごろ同会社を退職し、同月一一日ごろ被告オガワ包装の取締役に就任しその営業を担当していたものであることが認められ、これらの事実に、叙上認定の事実及び証人萩村信一、同長谷川多聞の各証言を総合すれば、被告小川公吉、同小川一夫、同湯原正造は、昭和四七年八月末日限り被告小川鋳造と東京梱包との間の前記製造委託契約が終了したこと、したがつて以後本件梱包機を製造販売することが原告の有する本件特許権(昭和四七年一二月一一日以降は本件専用実施権)を侵害することになることを知りながら、同年九月一日以降もあえて被告小川一夫は被告小川鋳造をして本件梱包機を製造せしめ、被告小川公吉、同湯原正造は被告オガワ包装をしてこれを販売せしめていたと認めるのが相当であり、これが認定に反する趣旨の、被告オガワ包装代表者兼被告小川公吉本人尋問の結果は右両証人の証言に照らし措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。してみると、被告小川一夫、同小川公吉、同湯原正造は、それぞれその取締役としての職務を行うにつき悪意又はすくなくとも重大な過失があつたといわざるを得ないから、被告小川鋳造、同オガワ包装が本件梱包機を製造販売したことにより原告が被つた損害につき、それぞれ商法第二六六条の三の規定する取締役としての責任を免れない。
2 そこで進んで原告の被つた損害について判断する。
(一) 製造販売台数について
成立に争いのない甲第一七号証、証人立花良介の証言により真正に成立したと認め得る甲第三一号証、同証人及び証人瀬下順弘の証言によれば、本件梱包機はその形式がすべて「MS」、「MST」、「MSD」又は「MSTD」であることを認めることができ、また、同証人の証言、被告オガワ包装代表者兼被告小川公吉本人尋問の結果によれば、右「MS」、「MST」、「MSD」及び「MSTD」以外の形式たとえば「KSD」、「KS」などは被告小川鋳造、同オガワ包装において開発した旨同被告らが主張する技術をもつて製造された梱包機であることを窺い知ることができるところ、これらの型式のものも本件梱包機と同一の構造を有するもの、ないしは本件特許発明の技術的範囲に属するものと断定すべき証拠はない。そして、以上の事実に、成立に争いのない甲第五五号証の一ないし一二、証人立花良介の証言によつて真正に成立したと認める甲第三〇ないし第三四号証、同古明地義智の証言によつて真正に成立したと認める甲第三五号証、証人萩村信一の証言によつて真正に成立したと認める甲第五〇ないし第五三号証、本件口頭弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認める甲第八三号証及び同号証により真正に成立したと認める甲第六三、第六六、第六七、第七〇、第七一号証、第七三ないし第七五号証、第七八号証並びに証人長谷川多聞、同立花良介、同古明地義智、同萩村信一の各証言を総合すれば、被告小川鋳造、同オガワ包装は昭和四七年一〇月五日から昭和五二年四月二一日までの間に、すくなくとも有限会社二幸商会等に対し本件梱包機を合計一六九台(念のため、台数と書証との関係を述べると、以下のとおりである。甲第三〇号証―一台。第三一号証―九台。第三二号証―二二台。ただし同号証二月九日分のうち一台は第三一号証中9に記載の一台と重複し、七月二〇日、八月三一日、九月二六日欄記載合計八台は第三三号証により返品された。第三四号証―五台、第三五号証―一四台。第五〇号証―二六台、第五一号証―九台。第五二号証―二〇台。第五三号証―六台。第五五号証―二四台。第六三、六六、六七、七〇、七一号証各一台。第七三号証―六台。第七四号証―一台。第七五号証―一七台。第七八号証―四台)を製造販売したことが認められる。
甲第五四号証は、その台数についての記載が明確ではなく、前掲甲第五〇ないし第五三号証に照らし、第五四号証をもつて、株式会社オオノが買い受けた本件梱包機が第五〇ないし第五三号証により認められる合計六一台を超えた台数であるとは認め難い。また、甲第五六、第五七号証については、前掲甲第三八号証中に原告代理人両名が伊藤孝次なる者から聴取し録取した書面であつて同人が署名、押印したものである旨の記載があるけれども、右伊藤孝次は、当裁判所が証人として出頭することを求めたにもかかわらず、二期日とも理由なく出頭しなかつたこと及び右第五六、第五七号証は右二回目の期日に至つて初めて当裁判所に提出されたものであること本件記録により明らかな事情に照らし、右第五六、第五七号証をもつて直ちに製造販売台数を認定し難い。次に、甲第五八号証の一ないし二二は、そのいずれが型式として「MS」、「MST」、「MSD」及び「MSTD」であるか明確ではないので、結局同号証をもつて、前記合計台数に加えるべき台数を確定することができない。更に、甲第七六、第七七、第八一号証にはそれぞれ型式として「MSD」もしくは「MSTD」と認むべき記載があるが、その購入先としていずれも株式会社オオノの記載がみられ、前掲甲第五〇ないし第五三号証と対比するときはこれらと重複しているおそれなしとしない以上、第七六、第七七、第八一号証をもつて直ちに製造販売台数と認めて前記合計台数に加えるべきものとはなし難い次第である。
しかして、他に、前記認定の合計台数一六九台を超え、原告主張台数を製造販売したと断定すべき適確な証拠はない。
なお、原告は、「被告小川鋳造が昭和四七年一月より同年八月末日までの間、本件梱包機の相当台数を東京梱包以外の者(被告オガワ包装又はその他の業者)に販売したこと及び被告小川鋳造、同オガワ包装が、本件梱包機を昭和四七年九月一日以降昭和四九年五月二二日まですくなくとも約五〇〇台製造・販売していたこと並びに右製造・販売により一台につきすくなくとも金五万円の利益を得ていたこと」をその証すべき事実として、昭和四七年一月一日以降昭和四九年六月一四日までの製造日誌、販売日誌、機械台帳、売上台帳、納品伝票、物品発送簿、運送委託控、送り状、部品仕入台帳、部品仕入伝票、仕訳帳、当座勘定照合表、総勘定元帳、金銭出納簿、手形記入帳、手形振出控、棚卸資産受払台帳、部品受払台帳及び売買契約書を、これら文書の所持者たる被告小川鋳造及び同オガワ包装に対して、特許法第一〇五条、商法第三五条及び民事訴訟法第三一二条第二号の規定に基づき文書提出命令を申立て、当裁判所は、昭和四九年一二月二日(第九回口頭弁論期日)右申立に基づき右文書の提出を命じたが、被告小川鋳造及び同オガワ包装は右文書の提出をしないことは本件記録に徴し明らかであるが、本件口頭弁論の全趣旨に照らし、もつて直ちに、被告小川鋳造及び同オガワ包装が製造販売した台数についての原告主張事実を真実として肯認することはできない。
(二) 損害の額
証人古明地義智の証言によつて真正に成立したものと認め得る甲第二三号証、同証人の証言及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、さきに認定した昭和四七年一〇月五日以降昭和五二年四月二一日までの間、原告は本件梱包機をみずから製造販売していたものと認めることができ、これが認定を左右するに足る証拠はない。そして、被告小川鋳造と東京梱包との製造委託契約存続中に、同被告及び被告オガワ包装が本件梱包機を製造・販売することによつて得た利益は、本件梱包機一台につき金五万円であることは被告らの認めるところであり、この事実に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、右昭和四七年一〇月五日以降昭和五二年四月二一日までの間における右両被告の得た利益もまた、本件梱包機一台につき金五万円を下らないと認めるのを相当とする。してみると、右金五万円に、被告小川鋳造及び同オガワ包装が製造販売した製品の台数である前記認定の一六九台を乗じて算出した金八四五万円が、被告小川鋳造及び同オガワ包装の本件特許権ないし専用実施権侵害行為によつて原告が被つた損害の額と推定されることとなる。
3 以上のとおりであるから、被告らは連帯して、原告に対し、金八四五万円とこれに対する不法行為の日の後であることが記録上明らかな昭和五三年七月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
五 被告小川鋳造及び同オガワ包装が本件梱包機及びその半製品(別紙物件目録記載の構造を具備しているが、梱包機として完成するに至らないもの)を所有しており、また、将来も本件梱包機を製造販売することによつて、原告の専用実施権を侵害するおそれがあることは叙上認定の事実及び本件口頭弁論の全趣旨によつてこれを肯認することができるので、右両被告の本件専用実施権の侵害行為の禁止並びに本件梱包機及びその半製品の廃棄を求める原告の請求は正当である。
六 以上のとおりであるから、原告の本訴請求のうち、被告らに対し本件特許権ないし専用実施権侵害による損害の賠償を求める部分は前認定の範囲において正当として認容し、被告小川鋳造、同オガワ包装に対し専用実施権侵害行為の禁止及び本件梱包機・前記半製品の廃棄を求める部分は正当として認容するが、被告らに対するその余の請求は失当として棄却することとする。